「プロフェッショナル~天ぷら職人・早乙女哲哉」を観た

健さん

2012年06月12日 22:58

NHK「プロフェッショナル~天ぷら職人・早乙女哲哉」を観た。
 
「限られた作業を一つ一つ突き詰めて深めていく、それが早乙女の闘いだ。」

次の言葉は、15歳で修業を始めて半世紀、天ぷらを揚げることに人生を捧げた66歳の男の言葉。

「衣をくっつけて油の中へ放り込んだらもうおしまいだもんな。その中で何ができるかっていうことだから。」
「目指すものは深く深く。もう突っ込むしかないんだよね。深く。それこそ井戸よりも深く掘ってみせてね、その深さはあんたらには見つからないんだよという仕事がしたい。」

「本流をしつづける。ガラっと目先は変わらないけど、いつの時代でも同じ物をとことん追求していく。目先を変えて逃げるってことはぜったいしないぞ。ぶつかってもぶつかっても跳ね返されてもまた、そこ、同じところしかね。」


私も凄い料理人を一人知っている。
身内で恐縮だが、私の実の叔父だ。
彼は日本橋にある小料理屋の店長だった。
その店は、チューボーですよ、や他のメディアで何度も取材されるほどの店だったということは、後で知った。
もう数年前に店を辞めたが、過去に二度、叔父の店で食べさせてもらったことがある。

一度目は19歳のとき、叔父がカツサンドを作って、私に食べさせてくれた。
その時のカツサンドは、それまでの短い人生で最高に美味しいカツサンドだった。

二度目は、社会人になって10年くらい経ってからだろうか。
「〇〇ちゃん(私)、なんでも食ベれるんだろ。」とだけ確認してから、叔父は私の食べるペースに合わせて、タイミング良く一品一品、料理を出してくれた。

夕方に行ったから、他のお客さんも徐々に入ってきて、カウンターにお客さんが何人も入った。
お客さんは何も注文しないのに、叔父は私のときと同じように、頭の中でコースを組み立てて、その人の食べる呼吸に合わせて料理を出していった。
サイコロ大のマグロの山掛けのグラス、刺身や焼き物、揚げ物、炊き込みご飯にお吸い物など、色々な料理を目の前で作って出していく。客のリクエストにもすぐに応じた。
もちろん、他の客の違う料理も同時に手早く作っていった。

叔父は作りながら、カウンターにいる複数のお客さんに、笑顔と礼儀正しい言葉で、天気の話しやその他もろもろの会話をしていた。
叔父は、くしゃくしゃの笑顔だった。
人なつっこい笑顔だった。
この人の笑顔をみると、ふっと力が抜ける、っていう笑顔だ。

叔父は普段も本当に優しい人で、江戸の言葉でポンポンと話す人で、先ほどのような周りを軟らかくする憎めない笑顔も時々見せるが、普段はもっと短気で、何というか、そう、凄味のある眼の人だ。
私の叔父じゃなかったら、夜にもしも肩がぶつかったら、真っ先にごめんなさいといってしまうだろう。
そんな叔父が、カウンターの中で終始、笑顔だった。

叔父は、料理の合間にすかさず他の板場の職人さんへ指示を出し、帰るお客さんに挨拶して傘の心配をし、別のお客さんへお茶を出すように言った。そしてカウンターの端っこに座っている私に「〇〇ちゃん、ほかに食いたいものないか。」と声をかけてくれた。

この人は目がいくつもある。

店の全てが見えている。

誰が何を考えているか、知っている。

小料理屋というものに入ったのは初めてだったが、叔父が、小料理屋とはこういうものだと目の前で見せて教えてくれた。
今でも、あの時のことはしっかりと覚えている。
仕事とは、働くということはどういうことか、背中で教えてもらった。

叔父は朝から夜遅くまで、市場や職場と家を何度も往復して、仕入れ、仕込み、営業をこなしていた。
仕事の合間にちょっとだけ自分の時間があるような人だった。
叔父にとっては、仕事も自分の時間なのだろうけど。

思い出した。
叔父がかけてくれた言葉で「いいから座んなよ。」っていう、からっとした江戸弁の言葉は、叔父の店に行ったあと、しばらくマイブームだったっけ。

そんな叔父のことを思い出しながら、TVを見ていた。

TVでは、早乙女さんが、何十年の付き合いの料理人が店をたたんだことを知り、ぽつりと時代だと言った。

優秀な料理人が店をたたまなくてはならない時代ってなんだろう。

それから最後に、店をたたんだ知人を自分の店に招待して、料理をふるまうシーンになった。

大した会話もせずに、早乙女さんが天ぷらを揚げ、対峙した知人が食べる。

早乙女さんは、天ぷらにエールを込めて、渾身の力で最高の料理を出していく。

料理を出し終えた早乙女さんは、達成感に満ちた笑顔で興奮気味に話していた。

TVを見た後、なぜだか私は無性にだれかと話しがしたくなって、23時から飲みにでかけてしまった。

昨日はそんな1日だった。


最後に、美味しいあなごの揚げ方を説明していたので、備忘録として残しておこう。

あなごを、170℃でじっくり揚げる。
泡がどんどん大きくなるのをじっと見守る。
泡が減ってきたところで、220度まで火力を上げる。
薄くしたあなごに油が染み込み、あなごの皮を焼き始める。
お箸で何度も何度も素早くひっくり返して、香ばしさを極限まで高めていく。
皮はバリバリ、身はふっくら。
あなごの持つ可能性を極限まで掘り下げた。

私も胸を張れる仕事がしたい。


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